バンブーズブログ

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[社説]東北の復興支え次の震災に生かせ


 
 
#社説 #オピニオン
2024/3/11 2:00
 
原発被災地では駅周辺で街づくりが進む。奥は福島第1原発(3月4日、福島県双葉町
東日本大震災から13年を迎えた。未曽有の大災害が被災地に残した痛みはいまなお癒えず、2万人に及ぶ犠牲者に心から哀悼の意をささげたい。復興途上にある東北の被災地をしっかりと支え、さらにその教訓を来たるべき次の震災への備えに生かすことが、尊い犠牲に報いることになろう。

宮城、岩手両県では復興が進むにつれて復興住宅の空室が増えた。高齢の被災者の孤立が課題になっている。心のケアをいっそう充実させてほしい。

廃炉作業はヤマ場に

福島県では東京電力福島第1原子力発電所の事故で避難を強いられた沿岸部の復興が緒についた。駅周辺などを特定復興再生拠点区域として除染し、役場や店舗などが再開した。助成金の手厚さもあり、企業の立地や若い世代の移住が増えているのは心強い。

ただ避難先で生活基盤を築いた被災者の戻りははかばかしくない。それでも政府は希望者が全員戻れるようにする方針だ。そのために除染する特定帰還居住区域の設定も始まった。

除染やインフラの維持を考えれば、できるだけまとまって住むのが望ましいが、すでに居住区域はまばらに広がる傾向がみられる。希望者が少ないなかでの居住地域の拡大は慎重に考えたい。

こうした地域の復興は、近くにある福島第1原発廃炉のゆくえと表裏一体だ。廃炉は30年近くかかる長丁場で、ささいなミスでも深刻な放射能事故につながりかねない。処理水の海洋放出は始まったが、ヤマ場はこれからだ。

最大の難関とされるデブリ(溶け落ちた核燃料)の取り出しは今秋にも着手する。3基同時に炉心溶融した原発廃炉作業は過去に例がなく、技術的課題も多い。

福島県内の除染で出た土の最終処分に道筋をつける必要もある。中間貯蔵施設にためた除染土は東京ドーム11個分あり、これを2045年3月までに県外に搬出する。政府が前面に出て全国規模で支援する仕組みを構築すべきだ。

今年は元日に能登半島地震が起きた。奥能登では、押しつぶされた家屋と倒壊を免れた住宅が隣り合っているのを目にする。耐震補強の有無が明暗を分けたのだろう。地震対策はまず耐震改修や地震保険への加入、十分な備蓄といった自助努力が肝要である。

能登の復興で生かすべき東北の教訓は持続性の高い街づくりだ。観光などで民間投資を呼び込める地域産業のあり方と、人口減少を考慮したコンパクトな街づくりを構想することである。

宮城県女川町は居住地を高台に移し、港周辺で若い世代を中心に観光の街づくりを進めている。当初は住民が流出し、20年分の人口減少が数年で一気に進んだ。その後は観光地として投資や移住が増え、人口減は鈍化した。街の持続性は高まったといえよう。

東北の復興に携わった岡本全勝・元復興次官は「街の将来を担う若者のいる市街地や中心集落は残すべきだが、高齢者がほとんどの小さな集落は集約することもやむを得ない」と提言する。東北には300を超える集落移転の事例があり、参考にしてほしい。

東北では人口の見積もりが甘く、防潮堤が守る地区やかさ上げした土地に空き地が目立つ。自治体は住民をとどめようと復興を急ぐが、当初は戻りたいと考えた住民も冷静に将来を考える段階になると心境を変えがちだ。丁寧に住民の意向を確かめ、長期的な視点で街づくりを考えたい。

「事前復興」を進めよう

住民の流出を防ぐには、被災したらどうするかを発災前に自治体と住民が話し合うのがよい。「事前復興」と呼ばれる取り組みだ。

南海トラフ地震で20メートルの津波が想定されている徳島県美波町は、東日本大震災後、住民に被災したらどうするかの意向を調査した。どの程度の住民が残るかを把握し、それに基づいて仮設住宅を建設する高台の整備を始めている。

人口減少が進む地域が被災すると、その傾向は加速する。事前復興は将来の街の姿を考えることであり、人口減少という「静かなる危機」への備えになる。

復興のあり方を平時から考えておくことは国レベルでも重要だ。東日本大震災では、津波被災地でインフラ投資が過大になる一方、原発事故の被災地では今後も廃炉費用が膨らむ。災害時は思い切った政策判断をしがちであり、平時に戻っても修正が効きにくい。

南海トラフ地震も、首都直下地震もいつ起きてもおかしくない。災害時は備えてきたことしかできない。それが過去の教訓である。