バンブーズブログ

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日本企業の未来思考法


 
新風シリコンバレー 米NSVウルフ・キャピタルマネージングパートナー 校條浩氏
#日経産業新聞 #コラム
2024/3/14 2:00
 
このコラムで私が寄稿を始めた2013年は、米フェイスブック(現在のX)の企業価値が1000億ドル(日本円で約15兆円)を超えた年だ。グーグルやアップルなどGAFAMにネットフリックスとNVIDIAを加えた成長テクノロジー企業7社だけで、その企業価値は米国全体の上場企業S&P500の何と25%以上になる。単純に言えば、米国経済の4分の一はここ数十年でスタートアップが創造したことになる。

 
めんじょう・ひろし 小西六写真工業で新事業開発に従事。BCGを経て1991年にシリコンバレーに移住。新事業コンサルティングを経て、ベンチャーキャピタル及びファンド・オブ・ファンズを組成。
このように、デジタル、ネット、人工知能(AI)の時代で新市場が創造されるのにはスタートアップが大きく寄与する。

近年、米国のベンチャーキャピタル(VC)の進化が著しい。急増したスタートアップの早い時期(アーリー)に出資するVCが、ここ15年くらいで1000社以上にのぼる新興の若いVCにとって代わられたのである。

セコイアなどの老舗有力VCは規模が大きくなり、これらの新興VCの投資先の中で成長してきた成功企業に後半(レーター)で多額の投資するような相補関係となった。

一方、大企業は未来を探るためにシリコンバレーを中心に多くのベンチャー情報を集めるようになった。シリコンバレーに事務所を開設し、さらにVCに出資したり、自社でCVCを作るなどの取り組みが広がった。

しかし、残念ながら成果を出している大企業はまだごく僅かだ。実は、それには根本的な原因がある。演繹(えんえき)法的アプローチが必要な新事業創造のプロセスで、帰納法的な発想で動いているのである。先の見えない状況で仮説・検証を繰り返して何かを創造していくのが演繹法的な思考なのに対して、帰納法的な思考では前例を重んじ、綿密に計画する。

日本はほぼすべてが帰納思考で動いている。すなわち、既存の事業モデルを前提にその成長の目標を作り、それを達成するための計画を立て、実行する。ここでは失敗しないことが最重要課題である。

このような帰納思考は、終身雇用と年功序列の組織で育ち訓練されてきた社員により支えられている。

ゼネラリスト志向で定期異動が基本の人事システムは、帰納思考組織の屋台骨だ。だから、シリコンバレーの駐在員は、定期異動で交代してしまうために、シリコンバレーベンチャー界の内側の情報に触れ、それにより企業の本体に新事業の芽を植え付けるような演繹思考の動きができないのだ。

こうした状況下で成果を上げつつある日本企業が出てきた。それらの企業は例外なく経営トップが自らの考えでシリコンバレーにコミットし、長期的な視野で活動を継続させている。

帰納思考的に受けのよい情報提供や従業員教育のようなものには与せず、あくまでシリコンバレーの最先端の新興VCと付き合い、インナーサークルのベンチャー情報を得て、社員が自らの頭で考え、行動をとるような演繹思考の活動を開始しているのである。これからの発展に期待したい。

日経産業新聞2024年3月11日付