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「指示権」は自治体の協力得られる運用に

[社説]「指示権」は自治体の協力得られる運用に
 
 
#社説 #オピニオン
2024/6/19 2:00
 
感染症患者を振り分ける広域調整は国の役割が大きい(2021年、大阪府吹田市大阪大学医学部付属病院)
新型コロナウイルス禍では、国が法律に基づく権限がないとして対応をちゅうちょすることがあった。逆に法的根拠がないのに国が唐突に学校の一斉休校を求めて混乱する事態も起きた。こうした反省から非常時に国がきちんと機能するよう、自治体への「指示権」を設ける地方自治法改正案が19日にも成立する。

国会審議では国が一方的に自治体を従わせる強権的な運用への懸念が出ている。法改正の趣旨は国と自治体の連携を円滑にすることだ。国は事前に自治体とよく調整し、自治体の協力が得られる形で運用しなければならない。

対象は感染症や大規模災害など「国民の安全に重大な影響を及ぼす事態」である。自治体が単独で対処できない場合、他の自治体が協力すればよいが、自治体同士は横の連携が苦手だ。特にどちらかが譲歩を伴う状況での協力は難しく、競争意識の強い首都圏などで混乱が懸念されている。

想定外の事態に自治体の対応がバラバラで国民の安全にかかわるとき、国が調整する余地が出てくる。ただ国は法令に根拠がないと自治体に関与できない。そこで必要になるのが指示権である。

コロナ禍では当初、全国の感染状況が把握できず、感染者の入院先の広域調整なども手間取った。これらは個別法で対処できるようにしたが、非常時は想定していない課題がしばしば生じる。指示権の創設はコロナ禍の教訓を生かすうえで必要といえよう。

一方、学校の一斉休校は権限のない国が地域事情を考慮せず、学校や家庭など現場への配慮を欠いたまま、自治体に要請した。ある意味で超法規的な措置であり、法治国家として望ましくない。

非常時は「できることは何でもやるべきだ」との声が強まり、合理性の乏しい政策に踏み切ることもある。指示権は国民の安全に関わるか、現場の事情も踏まえて判断する枠組みであり、国の独走に歯止めをかける意味もある。

もちろん国が強権的に指示する懸念はある。その場合も現場で執行するのは自治体であることが多く、自治体の協力がなければ国民の安全は守れまい。事前に十分に調整するのは当然である。

指示権は非常時に国の不作為と超法規的措置を防ぐための備えだ。地方自治の特例という範囲を逸脱することがないよう、最小限の運用に努めるべきである。