バンブーズブログ

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[社説]対話せず代執行に頼った国は反省せよ


 
 
#社説 #オピニオン
2023/12/29 2:00
 
手前は埋め立てがほぼ済んだ区域。右の船が点在する大浦湾側で1月から工事が始まる(8日、沖縄県名護市辺野古) =共同
政府は28日、沖縄県名護市辺野古沖への米軍基地建設で、沖縄県に代わって設計変更を承認する代執行に踏み切った。沖縄県と対話を深めず、初めて代執行という最終手段に頼る事態に至ったのは国と地方の関係における汚点であり、政府は反省してもらいたい。

安全保障は国の役割である。だがその現場では自治体の協力なしには部隊の円滑な運用や住民の避難に支障を来す。代執行はいざというときに必要な国と地方の信頼関係を傷つけたといえよう。岸田文雄首相は沖縄との関係を修復し、沖縄が求める基地負担の軽減に真摯に取り組むべきである。

設計変更の承認により、地盤が軟弱な区域の埋め立て工事が1月に始まるが、工事が順調に進んでも普天間基地の移設は2030年代半ば以降になる。懸念される台湾有事が20年代後半に起こるようなら当然間に合わない。それでも抑止力を高めるうえで辺野古移設はやむをえないと考える。

普天間基地を運用する米軍関係者は、しばしば高台にある普天間基地の使い勝手の良さを強調する。移設の遅れが、米軍側に移設の現実味を薄れさせているとしたら問題である。住宅地に囲まれた危険な普天間基地の返還は不可欠であることを再認識したい。

辺野古の埋め立ては、安倍政権下で沖縄振興予算を手厚くするなど寄り添う姿勢を見せたことで13年に仲井真弘多知事が承認した。だが、その後、基地反対派の知事が続くと、政府は「移設を粛々と進める」と距離を置いた。この冷めた姿勢が沖縄の態度を硬化させ、対話の余地を狭めて法廷闘争を招いた要因である。

私たちは岸田政権に対して、沖縄に寄り添ってきた宏池会政権らしく、対話を深めるよう求めてきた。それが顧みられず、代執行に至ったのは残念だ。

沖縄との関係が冷え切った今、改めて沖縄に偏る基地負担を減らす道を米国と探り、辺野古移設に理解を得るよう努めるべきだ。それには沖縄以外の自治体が沖縄の苦悩を自分事ととらえ、日本全体で沖縄の負担軽減に協力する姿勢も欠かせない。

台湾有事を念頭に、南西諸島から住民を避難させる態勢づくりは緒に就いたばかりだ。沖縄県民を再び戦火にさらすことは決してあってはならない。万一への備えに支障とならぬよう、首相は県民の信頼回復に尽くしてほしい。