[社説]利下げ「予告」のFRBは軟着陸へ万全を
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2024/8/25 2:00
パウエルFRB議長㊨は利下げへの政策転換を示唆し「強い労働市場を支えるためにできることは何でもやる」と語った。
米連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長が9月の次回米連邦公開市場委員会(FOMC)で利下げに動くと事実上の予告をした。23日、各国中央銀行の関係者らが集う毎年夏恒例のジャクソンホール会議の講演で「政策を調整すべき時が来た」と明言した。
雇用情勢を丹念に点検し、景気の軟着陸に向けた詰めの作業を誤らないようにしてほしい。その成否は日本をはじめ、世界の経済や金融環境を大きく左右する。
パウエル氏は労働市場の軟化を踏まえ「さらなる減速を求めていないし、歓迎もしない」「強い労働市場を支えるためにできることは何でもやる」と語った。インフレ減速が鮮明ななか、雇用の安定を優先する判断は妥当だろう。
2日公表の7月分の雇用統計は失業率が想定外に上昇し、米株価の急落を招いた。パウエル氏は「景気後退時にみられる一時解雇(レイオフ)が増えた結果ではない」と健全な調整だと説明した。
近年の米労働市場は極度の人手不足のあとに移民が大量に流入するなどして、どう動くかが見極めにくい。注意は必要だ。
市場は利下げ予告を好感し、23日のダウ工業株30種平均は史上最高値に迫った。0.5%の大幅利下げを期待する声もある。だが雇用の悪化に追われるように利下げを急げば、市場は動揺に転じうる。雇用に変調がないか不断に注視し、機敏に対応してほしい。
米利下げと軟着陸の行方は世界経済や市場への影響が大きい。日本では、日銀の7月末の利上げが雇用悪化を懸念した米市場の動揺と重なり、円安の大幅な修正と株価急落に直面したばかりだ。
この問題を議論した23日の衆参両院の閉会中審査で、日銀の植田和男総裁は、市場を注視しつつも経済・物価の見通しが想定通りなら「今後、金融緩和の度合いを調整していく基本的な姿勢に変わりはない」との認識を示した。
経済や物価の進展にあわせ金融政策の正常化を探る姿勢自体は妥当だが、今回は利上げ決定から市場動揺を経て政策を巡る説明が二転三転した印象は拭えない。植田氏が「幅広い層に丁寧かつわかりやすく説明することは極めて重要」と強調したのは当然だ。
FRBと逆方向の利上げは緻密な情勢判断と丁寧な説明が欠かせない。米国の変調リスクに備える意味でも、市場や国民との相互信頼の関係を着実に築いてほしい