[社説]公益通報の軽視は看過できぬ
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2024/9/8 2:00
兵庫県議会の百条委員会で証人尋問に応じる斎藤元彦知事(6日、神戸市中央区)
兵庫県の斎藤元彦知事をめぐる告発文書問題で、知事側が公益通報制度をないがしろにしてきた実態が明らかになってきた。公益通報は組織の健全性を保つ手段の一つだ。それを軽視した結果として、人命が失われ、県政を停滞させている現状は看過できない。
県議会の最大会派、自民党は知事に辞職を求めることを決めた。辞めなければ、9月議会で知事の不信任決議案を提出するという。知事は進退を判断せざるをえない段階に入ったといえよう。
県議会の調査特別委員会(百条委員会)の証人尋問によると、知事は告発文書を入手した翌日、告発を公益通報として扱わず、告発者の特定を急ぐよう指示した。この初動に大きな問題がある。
知事は公益通報としないのは、噂話を集めたもので、写真など客観的な証拠がなく、真実性に欠けるためだとした。真実性の有無は告発された当事者が判断すべきことではない。第三者機関など当事者の影響力を排した体制をつくり、それによる事実関係の調査を待つべきだった。
同調性の高い日本的な組織風土では、組織内で異を唱える壁は高い。だからこそ、公益通報者保護法は通報者の保護を最優先し、通報者捜しを禁じている。通報者を特定せずに事実関係を確認することもできよう。通報者の特定を急いだのは制度への理解を欠いていたと言わざるをえない。
知事が一連の判断で弁護士の見解を根拠にしているのも違和感がある。自治体は法令解釈権を持つ。地方分権でその権限が広がり、法令を解釈、運用する能力が自治体に問われて久しい。そうした思いのある職員の進言を聞き入れず、弁護士に責任を転嫁しているようにみえるのは情けない。
かつてリクルート事件で秘書が自殺した竹下登元首相は証人喚問で「私という人間の持つ一つの体質が悲劇を生んでいる。私自身顧みて罪万死に値する」と述べた。政治家の道義的責任はそれほど重いことを自覚してほしい。