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2023/7/18 19:05
ニュージーランドでのTPP閣僚級会合で英国の加盟が承認された(16日、オークランド)=共同
自由貿易を守る防波堤を築かなければならない。環太平洋経済連携協定(TPP)が英国の加入で12カ国体制になる。自由化の質を落とさずに、加盟国のさらなる拡大をめざすべきだ。
TPPに参加する11カ国がニュージーランドで閣僚級の会合を開き、英国の加盟を正式に認める協定に署名した。加盟国の国内総生産(GDP)は世界全体の12%から15%に増える。
高度な自由化を掲げてきたTPPは新たな段階に入る。アジア太平洋を中心とした地域に限られていた加盟国が欧州にも広がるためだ。TPPがよりグローバルな枠組みに向かう一歩として、英国の加盟を歓迎したい。
米国が2017年にTPPから離脱して以降、世界の自由貿易体制は危機にさらされてきた。自国優先の保護主義が台頭したうえ、自由貿易より経済安全保障を優先する意識が高まったからだ。
いまのTPPは米国の離脱後に残った11カ国で18年に発効した。新規加盟は今回の英国が初めてとなる。TPPが拡大に転じ、自由貿易の後退を止めるきっかけにしなければならない。
現在、新たに加盟を申請しているのは中国、台湾のほか、コスタリカなど中南米の3カ国とウクライナである。
最大の焦点は中国の扱いだ。マレーシアなど一部の加盟国は、14億人の巨大市場を抱える中国の取り込みに前向きな姿勢を示す。
一方、日本やオーストラリアは慎重な立場を崩していない。意に染まない国に貿易で圧力をかける「経済的威圧」を、中国がやめようとしないからだ。
TPPは関税の撤廃だけでなく、投資やデジタルなどの分野でも高水準の自由化をうたう。
中国には国有企業の優遇や、進出企業を狙った技術移転の強制といった不透明な慣行が多く残る。現時点でTPPに入る資格があるとは、とても言えない。
中国との関係で台湾の加盟も簡単にはいかない。米国の復帰はめどがたっておらず、英国に続く大型案件はしばらく期待しにくいのが実情だ。
しかし、ここであきらめたら高水準の自由貿易を広げる試みは止まってしまう。韓国やタイなどTPPに関心を示す国は少なくない。日本は率先してこうした国を仲間に引き入れ、TPPの拡大を主導すべきだ。