バンブーズブログ

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[社説]人材流動化で労働力生かしきろう


 
人手不足に克つ
#社説 #オピニオン
2023/8/12 2:00
 
政府がまとめた労働市場改革の指針は踏み込みが甘い(5月、首相官邸での新しい資本主義実現会議)
貴重な労働力を生かしきり、少ない人員で仕事を回す。そうしなければ、人口減少でこれから一段と深刻になる人手不足を乗り越えることは難しい。

主要7カ国で最低水準にとどまっている労働生産性の向上は喫緊の課題だ。業務のあり方を根本から見直し、働き手に能力を最大限に発揮してもらう必要がある。

技術的失業にも備え

米ギャラップの調査では、仕事への熱意や職場への愛着をみせる社員は日本には5%しかいない。145カ国のうちイタリアと並び最低水準だ。熱意が乏しければ生産性も上がるまい。

リコーは社員の提案で2000以上の業務プロセスをロボットや人工知能(AI)に置き換えた。浮いた時間は自身の成長に充ててもらい、希望すれば勤務時間の2割まで他の部署で働ける。

重要なのはこうした社員の意欲を引き出す工夫だ。年功要素が残る人事・賃金制度を改め、若手の抜てきなどで活性化したい。

社員に自律性を持たせ、適材適所の人員配置をするのに有効なのが公募制だ。ジョブ型人事制度を導入した日立製作所は21年度から中途採用の募集時に同じポストを社内でも公募し、社内外の人材を競わせる。22年度に約160人の社員が異動し、24年度には500人規模に増やしていく。

社会全体でも人材の流動性を高めて適材適所を図りたい。技術進歩で雇用が失われる技術的失業に備えるためだ。世界経済フォーラムの予測によると、AIの進化などで27年までに6900万件の新たな仕事が生まれる半面、8300万件の仕事がなくなる。

転職しやすい柔軟な労働市場に変えるのは政府の重要な役割だ。5月にまとめた労働市場改革の指針は総花的で踏み込みが甘い。成長分野への労働移動を確実に促す施策が必要だ。

スウェーデンやドイツなどでは職業訓練で企業が長期の実地研修を引き受ける。日本も政府が企業や労働組合と連携して、デジタル分野など不足する人材を育てる枠組みを作るべきだ。そのために日本ではまだ少ない異業種間の転職を後押ししたい。

労働移動を活発にするには、米国のような職種ごとの精緻な賃金相場が欠かせない。情報インフラの整備を急ぐ必要がある。

企業は社員が新たな職務に就けるよう学び直しを支援することが重要だ。デジタル人材はすでに中途採用市場で取り合いになっている。熟練者でなくても入社後に必要なスキルを身につけてもらうなど柔軟な採用も必要になる。

中期的な人手不足を克服するには働き方の自由度を一段と高めたい。高齢者や女性の労働参加率は頭打ちが近いと言われるが、工夫の余地はある。

リクルートが3月に実施したシニア向け調査では、意欲がありながら働いていない人のうち、仕事を探したものの見つからない人が54%を占めた。希望は1日3〜5時間の就労が多く、企業は短時間勤務の導入が求められる。

ローソンは店内のモニターに映したアバター(分身)が商品を説明する実証実験を始めた。これならシニアや子育て・介護をする人が自宅からオンラインで接客できる。柔軟な働き方で企業はもっと知恵を絞るべきだ。

副業と週休3日制を

副業も業務に支障がない限り認める必要がある。社外で働くことで新たなスキルが身につき、将来のキャリア選択でも可能性が広がる。副業や学び直しがしやすいように週休3日制の導入も前向きに検討してほしい。

社員を自社内に閉じ込めていてはイノベーションは生まれにくい。賃金などの処遇や職場環境で各社が競い合い、多様な人材が企業の垣根を越えて行き来してこそ産業界全体の足腰は強くなる。

政府も働きやすさを後押しする必要がある。裁量労働制は一部の専門業務に限定しているが、在宅勤務者に適用するなど対象拡大を検討してほしい。

給与が一定額を超えると社会保険料の負担が生じる「年収の壁」はパートの就業調整を招く。壁がなければもっと働きたいという人は少なくない。個人の意欲をそぐ仕組みは見直しが不可欠だ。

政府も企業も課題は山積している。雇用を流動化させる労働市場の改革速度を上げるときだ。