バンブーズブログ

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[社説]中国の日本産水産物の禁輸は理不尽だ


 
#社説 #オピニオン
2023/8/25 2:00
 
北京市内の販売店で売られる日本産のウニ(手前右)。入荷が激減し1箱だけ残っていた=7月(共同)
どう考えても理不尽だ。中国が日本産の水産物の全面禁輸を決めた。東京電力福島第1原子力発電所の処理水放出への対抗措置という。科学を無視した習近平政権の対応に、強く抗議する。

中国外務省は「食の安全と中国人民の健康を守るため、あらゆる必要な措置をとる」との談話を発表した。水産物以外の日本産食品にも、新たな輸入規制を導入する可能性を示唆したと受け止められている。

中国政府は日本政府が科学的な観点からの協議を求めても、一貫して拒んできた。

国際原子力機関IAEA)は福島第1原発の処理水が国際的な安全基準に合致すると結論づけている。中国政府はそれにもまったく耳を貸さず、処理水を「核汚染水」と呼んできた。

反対ありきの姿勢からは、この問題を日本への外交カードに使おうという思惑が透ける。まさに貿易や投資を通じて他国に圧力をかける「経済的威圧」であり、断じて受け入れられない。

日本の水産業はすでに大きな打撃を受けている。

中国は処理水の放出が始まる前の7月から、サンプルだけだった日本の水産物に対する放射性物質の検査対象を全量に切り替えた。日本からの生鮮魚の輸入額が7月に前月比で5割減ったのは、その影響とみられる。

日本の水産物輸出のうち中国向けは2022年で全体の2割強を占め、国・地域別でトップだ。特にホタテなどは中国向けが急速に伸びていた。今回の禁輸で受けるダメージは計り知れない。

日本政府が科学的な根拠に基づき、中国側に粘り強く話し合いを働きかけていくのは当然だ。

しかし、習政権がすぐに受け入れるとは思えない。いま必要なのは、中国以外の国や地域の市場を長期的な視点で開拓する努力だ。

中国に代わる新たな水産物の輸出先としては、日本産食品に課していた輸入規制をこのほど撤廃した欧州連合EU)が有力になる。米国やオーストラリアも以前から規制をなくしており、輸出拡大を期待できる。

日本政府は風評被害への補償に万全を期すとともに、世界への販路拡大をめざす民間の動きを後押しすべきだ。中国への過度な依存を減らさなければならないのはサプライチェーン(供給網)だけではない。