バンブーズブログ

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[社説]民意を軽んじたタイ首相選出


 
 
#東南アジア #国際 #社説
2023/8/24 2:00
 
セター氏は親軍派と連合を組んだ(22日、バンコク)=小林健撮影
タイの国会が22日、下院第2党でタクシン元首相派のタイ貢献党が推すセター氏を新首相に選出した。5月の総選挙から3カ月余りでようやく新政権の発足が決まり、政治空白は解消に向かう。

もっともセター政権は第1党で革新系の前進党を排斥し、選挙で大敗した親軍政党との「大連立」で発足する。2014年のクーデター以降、9年間続いた国軍の政治介入にノーを突きつけた民意の軽視と言わざるを得ない。

総選挙後、タイ貢献党は前進党と組み、旧8野党で連合を結成した。下院(定数500)の6割超の312議席を確保し、首相候補にピター前進党党首を立てた。

ところが7月半ばの最初の首相指名投票で、ピター氏は選出を阻まれた。首相指名は上院(同250)との合同投票で、上下両院の過半数(欠員を除き375人)の支持が必要だ。国軍が任命した上院議員は、王室に対する不敬罪の改正を公約した前進党に反発し、ピター氏を支持しなかった。

この失敗の後、タイ貢献党は前進党を見限り、親軍派を含む11党で新たな連合を形成した。下院は314議席だが、今度は上院議員の多くがセター氏を支持した。

22日には汚職罪などでの収監を逃れて国外逃亡中だったタクシン氏が15年ぶりに帰国した。首相指名投票の直前に戻り、計8年間の刑期を受け入れたのは、国軍などの守旧派との間で、政権参画と引き換えに恩赦を与える「密約」が成立したためとの見方がある。

親軍派との協力を否定してきたタイ貢献党が、理念より権力を優先したのは釈然としない面がある。ただ20年近く続いたタクシン派と反対派の対立が収束に向かえば国民和解は前進する。セター政権は政情安定に注力すべきだ。

民意を覆された前進党と支持者の憤りは当然だ。上院が首相指名に加わるいびつな制度は、来年5月で期限が切れる。街頭での過激な抗議活動は自制し、次の総選挙も視野に、最大野党として国会で存在感を示してほしい。