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認知症を悪化させないコツ

配信 2023年9月1日 11:15更新 2023年9月2日 19:22
NEWSポストセブン

 2025年には高齢者の5人に1人が患うといわれる認知症。同居であれ遠距離であれ、介護する家族の生活にも大きく関わるシビアな問題でもある。

 ひと昔前は、不可解な行動や症状に「何もわからなくなっている人」と捉えられ、「痴呆」とも呼ばれていた。しかしいまは世界中で研究が進み、進行スピードは30年前の3分の1ほどにまでなり、認知症観は大きく変わりつつある。


 東京慈恵会医科大学教授で日本認知症ケア学会理事長の繁田雅弘医師は、監修を務める『151人の名医・介護プロが教える 認知症大全』(小学館)の中で、「進行ステージの『軽度』・『中等度』くらいまでを維持したまま、天寿をまっとうする人が増えている」と語る。


「軽度」・「中等度」とは、少しの支援や介助で普通に生活できるステージこのと。この「普通に生活できる」ステージを維持するためには、身近な家族が認知症をよく理解し、本人目線で対応することが重要なポイントだという。同書より、実際に介護現場に携わったプロから聞いた最新の認知症情報を紹介する。

 

認知症の人の行動を正そうとするのは逆効果。より症状が悪化しやすくなる

「話したことを忘れて同じ話を繰り返す」

「今日が何曜日かわからなくなる」

「得意だった料理ができなくなる」

 これらは認知症でよく見られる症状。これに対し、身近にいる人は、「違う!どうしちゃったの」「さっき、金曜日と言ったでしょ!」などと厳しく指摘したり正そうとしたりしていないだろうか。

 多くの認知症は、基本的に進行はゆっくり。脳の機能低下でできないことや生活上の失敗は出てくるが、すぐに何もかもできなくなるわけではない。

 しかし発症以前をよく知る家族には小さな変化がすべて異常な行動に映り、家族だからこその切ない思いも募る。つい責めてしまうのだが、身近な人のそんな対応が本人を不安にさせ、症状悪化を招き、“より大変な認知症介護”につながることを、まず知っておきたい。


 実は少なからず本人も自分の異変に気づくという。平静を装っていても内心は、自信を失い、この先どうなるか大きな不安に苛まれているのだ。さらに困りごとやつらい気持ちをうまく言葉で説明できなくなるのも認知症の症状の一つ。


 そのもどかしさや、身近な人に理解されない悲しみが大きなストレスになり、「妄想」や「介護拒否」、「暴言」、「徘徊」といった周囲を困らせる症状になって現れたりもする。


認知症は本人も自分の異変に気づいていることが多い。「バカになっちゃった」というつぶやきも多く聞かれる。イラスト/やまなかゆうこ

 

◆基本は「失敗を責めない、正さない」

 介護の第一の心得は、認知症本人の行動を否定しないこと。失敗しても責めない、間違っていても一旦受け入れることが肝要だ。さらに本人が苦手になったことを探り、グッズや福祉用具も駆使して「失敗させない工夫」をする。

 例えば認知症家族の悩みでよくある「誰かがお財布を盗った」という“もの盗られ”妄想。この場合は、「誰も盗ってなどいない」と否定せず、まずは話を聞いて、一緒に探して本人に見つけさせる、市販のキーチェーン(探し物発見タグ)をつけて探しやすくするなどが有効だ。

・手を取ったり背中をさすったりする何気ない「ボディ&タッチ」

・情報は少しずつ、小出しに、ゆっくり「ユマニチュード」(R)ケア

・聞き役に徹する「傾聴」と、輝いていたころを思い出す「回想」


 これらは本人を安心させる有効なケア法だ。常に抱える不安を癒し、本人の話をじっくり聞くことで本来の自分らしさを取り戻せる。できるだけ理解して寄り添うこと。これで不可解な困った症状は大幅に軽減することができるのだ。


フランスで考案されたユマニチュード(R)のケア法では、水平に視線を合わせる「正面から伝える」を推奨。イラスト/鈴木みゆき

 

◆進行を遅らせるキーワードは、本人の「生きがい」

 いまのところ、アルツハイマー病など認知症の原因になる病気を根治させる治療法はない。しかし、大変効果的と言われているのが、ずばり本人にとっての「生きがいある生活」だ。

「外出」や「運動」だけでなく、「園芸」「読書」「楽器演奏」「川柳」などの趣味は脳に刺激を与えくれる。近頃、話題の「健康麻雀」もまさに認知症にいいと高齢者に人気だ。

 また「化粧」や「ファッション」「料理」「買い物」など日常生活を気ままに楽しんだり、笑ったり泣いたりする生活も重要という。家族や周囲の人に何かをしてもらうのではなく、認知症の本人自身が好奇心をもってワクワクすることが大切なのだ。


料理が作れなくても、切るなどの作業はできることも多い。できることを支援するのも効果的。イラスト/鈴木みゆき

 この「生きがい」という分野の認知症研究も進んでおり、米国・ラッシュ大学の研究チームが高齢者を対象に行った調査(※)では「人生の目的(生きがい)を持っている人は、アルツハイマー認知症で脳の病理的変化が進んでも認知機能の低下が起こりにくい」という結果も。つまり生きがいをもって前向きに暮らすと、病気が進行しても生活する能力が保たれるということだ。


 脳はいろいろな神経が連携して働いているので、一部の機能が低下しても、ほかが補って機能を果たそうとする。

 認知症になって脳の一部が障害されても、「まだ障害されていない部分、障害され始めていても程度が軽い部分の脳は、使っていくことで能力は上がる」と前出・繁田雅弘医師は解説する。脳活性のためのトレーニングもあるが、“普通の生活”を主体的に楽しむだけで脳はフル稼働するという。

 本人がやりたいことをして、存分に人生を楽しめるよう寄り添う。これが進行速度をゆるめ、認知症でも心を平らかにして生涯を過ごす知恵。そこに手を貸すのが、家族の役割かもしれない。


好奇心をもって楽しめる趣味や遊びが認知機能を活性化する。イラスト/やまなかゆうこ

※「アルツハイマー病の病的変化と高齢期の認知機能との関係に及ぼす“人生の目的”の影響」(アーチジェン精神医学2012.69(5))

◆取材・文:斉藤直子

参考/『151人の名医・介護プロが教える認知症大全』 監修:繁田雅弘(認知症専門医)、服部万里子(主任ケアマネジャー)、鈴木みずえ(老年看護学教授)

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