バンブーズブログ

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ボブヘアになった愛子さまの普通の女の子の語り口に思う 

「安定的皇位継承」の切ない不確かさ
9/3(日) 9:30

 

 

那須御用邸を散策する天皇、皇后両陛下と長女愛子さま(代表撮影)
4年ぶりの天皇一家のご静養が話題を集めている。ひときわ目を引いたのが愛子さまの様子。長い髪をカットされ、ボブヘアに。記者とのやりとりも大学生らしいほほえましいものだったという。卒業まで半年ほど。一般の大学生ならば進路が決まっている時期だ。コラムニストの矢部万紀子さんが、愛子さまの置かれた微妙な立場に思いを馳せた。

*  *  *
 8月21日、天皇陛下雅子さま、そして愛子さまが4年ぶりに那須御用邸での静養に入った。愛子さまは髪を短く切っていた。肩あたりまでの長さになったのは私の知る限り、2年4カ月ぶり、3回目のことだ。

 最初は2018年7月、学習院女子高等科2年の時。イギリスのイートン校に3週間の夏期研修に向かう羽田空港、赤いスーツケースを押した愛子さまは、切り揃えた髪まで張り切っているようだった。次は2021年4月、学習院大学2年の時。ご一家で改修工事中の皇居・旧吹上仙洞御所を視察に向かう車内、愛子さまは毛先をふんわり内巻きにしていた。そして今回は、サイドを編み込みにしたスタイル。那須御用邸での宮内記者会とのやりとりでも話題になったという。

■オンレコードが終わってからのやりとり
「涼やかになられましたね?」と声をかけたのは、宮内記者会の幹事社として質問をしたフジテレビの宮崎千歳記者。愛子さまはまず「気づいていただけましたか」と答え、「35、6センチくらい切りました。軽いです。切った時はもう、首が据わらないって感じになりました。シャンプーも楽で」と述べたそうだ。FNNプライムオンライン(8月28日配信)が伝えていた。

 オンレコードの取材が終わってからのやりとりだったそうで、映像も音声もない。陛下と雅子さまも笑っていたというから、愛子さまはきっと楽しげだったのだろう。ユーモラスな表現に、聡明さと可愛らしさがよく表れている。そして「愛子さまも“普通の女の子”なのだ」という感想が浮かび、浮かんだ途端に愛子さまの“普通”でない立場を思い出す。そう、勝手に複雑になってしまうのだ。

雅子さま愛子さま、母娘の「ヘアスタイル史」
2003年8月、那須御用邸付属邸に滞在するため、JR那須塩原駅に到着し、歓迎に応える皇太子さま(当時)と、愛子さまを抱いて手を振る雅子さま
 雅子さま愛子さま、母娘の「ヘアスタイル史」があるからだ。雅子さまは今でこそ長い髪をひとつにまとめるスタイルが定番だが、幼い頃、外務省勤務時代、結婚後のある時期まで、ショートカットだった。愛子さまの生まれた2001年からしばらくは耳が見えるくらいのショートで、子育てと公務の両立のための選択だったのだろう。

 そんな雅子さまがロングヘアになったのは2007年、愛子さまの影響だった。そう言い切ったのは、雅子さまの誕生日(12月9日)に公表される「ご近影」を追いかけてのことだ。宮内庁ホームページには1993年の結婚以来、誕生日ごとに雅子さまが臨んだ会見や発表した文書回答がすべてある。愛子さまが生まれた翌年の2002年12月からは、ご一家3人の写真も公表されるようになった。だが、2003年12月、雅子さま帯状疱疹で入院、この年は会見も文書や写真の公表もされなかった。

 雅子さまは長期療養に入り、「適応障害」と発表された2004年には短い文書が公表されたが、写真はなし。写真と文書の両方が復活したのは2006年のことだった。紅葉を背に、皇太子さま(当時)と雅子さまは、真ん中にお二人と両手をつなぐ愛子さま雅子さまの髪はあごの辺りまで、愛子さまの髪は肩下10センチくらいまであった。翌2007年、公表された写真の雅子さま、髪が伸びて肩下10センチほどにまでなっていた。1年かけて、愛子さま好みのロングヘアに追いついたのだ。

2007年11月、赤坂御用地を散策する皇太子ご一家(宮内庁提供)
 この時、雅子さまは前髪もあげておでこを見せるスタイルで、隣に立つ愛子さまもおでこを見せていた。この時以来、お二人はそっくりの髪形になる。途中から愛子さまは前髪をつくったが、お二人とも「かなり長めのロングヘア」を守った。母と娘、手に手をとって皇室という世界に立ち向かう、その証しがロングヘアのように見えたのは、お二人ともに苦しみの歴史があるからだ。

2012年8月、静岡県下田市伊豆急下田駅に到着した皇太子さま(当時)と雅子さま愛子さま(代表撮影)
 皇室に嫁ぎ、適応しようとして障害を起こした雅子さま学習院初等科2年時に「不登校」が明らかになった愛子さま雅子さまの付き添い登校は、批判も招いた。以後も愛子さまは学校を休みがちで、40日を超す欠席が報じられたのは中等科3年の2016年。同年12月、雅子さまの誕生日に公表されたご一家の写真、愛子さまは激しくやせていた。

 尋常でない細さに、愛子さまはなんて生きづらそうな少女なのだと痛感した。ご一家の服装はベージュが基調になっていて、今では「リンクコーデ」としてすっかり定番になっているが、当時はただただ愛子さまを励ますファッションのように感じたことを覚えている。

 冒頭に戻るなら、愛子さまが最初にショートヘアになったのはこの2年後のことだ。顔もふっくらとして、元気そうだったことに安心した。ショート2度目の2021年は令和になっていたから、愛子さまの「自立の証し」だと思った。皇后になり、確かな歩みを見せる母。大学生になった娘。二人してそっくりな髪形で立ち向かわずとも、それぞれが皇室に居場所を得た。その証しだと思った。

■ことの本質は愛子さまの微妙な立ち位置
 さて、ここからがやっと本題だ。自分で書いておきながら、「証し」ってどうだろうと思う。愛子さまは一人の大学生だ。前回のショートは、すぐに伸ばした。2年後の夏にまた短くしたのは気分転換か、あまりに暑い夏を乗り切る対策か。いずれにせよ、たかが髪形なのだ。

 なのに意味を感じてしまう理由は、縷々書いた。が、結局のところ、ことの本質は愛子さまの微妙な立ち位置なのだと思う。愛子さまを「生きづらそうな少女」と思ったと先述した。「すごく繊細なんだな」と思っていたのだが、その根本を見ていなかった。何かというと、愛子さまは生まれた時から「男の子でない」という現実だ。愛子さま誕生の5年後、秋篠宮家に悠仁さまが生まれたが、それでも皇室最大の課題は「安定的皇位継承の確保」にある。

 なぜ確保できないか、その答えは皇位継承者を「男系男子」に限定しているから。私の中ではすっきりとしていて、それさえ変えればいいのにと思う。が、それだけは変えてはならないと考える人たちがいて、国会議員に大きな影響を与えている。

2019年8月、愛犬の「由莉」とともに、那須御用邸の敷地内を散策する天皇、皇后両陛下と愛子さま(代表撮影)
 愛子さまは、ずっと「安定的皇位継承が確保できない」現状と共に育ったのだ。これを思うと、切なくなる。成人した愛子さまが立派な振る舞いをしているのは、本当に素晴らしい。そこに至るまでにどれだけのことを呑み込み、克服してきたのだろうと想像すると、勝手に苦しくなる。愛子さま雅子さまも、自由に髪を切ったり伸ばしたりする。それだけですむ世界になってほしいと、私は願っているのだ。

■皇室は「寿退社」しか決まりのない会社 
 ところで、愛子さまは来春、大学を卒業する。いずれ留学するのだろう、と思っている国民は多いはずだ。私もその一人だが、愛子さまにはそれが「盛大なモラトリアム」なのだと思うと、心がちょっと痛くなる。

 陛下も雅子さまも英国への留学経験があるが、お二人とも目的がはっきりしていた。陛下なら「天皇」、雅子さまなら「外交官」、歩んでいく道があり、その幅を広げるための留学だった。だが、愛子さまはどこに歩んでいくか、明確ではないのだ。何度も書いているが、皇室典範は女性皇族について「天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」としか規定していない。「寿退社」しか決まりのない会社。皇室のことを、何度もそう書いている。

 小室眞子さんが、国際基督教大学の留学説明会で出会ったのが夫の圭さんだった。その瞬間、眞子さんの曖昧だった人生設計が像を結んだ。勝手にそう想像している。結婚にあたっての記者会見で眞子さんは、婚約発表後の圭さんの留学について、「圭さんが将来計画していた留学を前倒しして、海外に拠点を作ってほしいと私がお願いしました」と語った。「海外の拠点作り」を眞子さんは人生の道しるべにし、自身の留学の意味も明確になったはずだ。

■「天皇家の長女」愛子さま 小室眞子さんとは違う
 那須御用邸に話を戻すと、愛子さまはカメラを前に「那須は本当に自然が豊かで空気もとてもきれいなので、豊かな自然に触れながら、リフレッシュできればな、と」と言っていた。そして「大学、残り半年、残り半分、いろいろなことに取り組んでいけたらと思っております」と続けた。「半年」の語尾を上げ、疑問系のように言い、「半分」と言い直す。“普通の女の子”の語り口だった。だが、愛子さまは「天皇家の長女」であり、「天皇家の次男の長女」だった眞子さんとは違う。それを思うと、また少し切なくなる。

 安定的皇位継承のあり方については2021年12月、政府の有識者会議が「女性皇族が結婚後も皇族の身分を保持する」「旧宮家の男系男子が養子として皇族復帰する」の2案をまとめている。が、それを受けて国会が何かを検討しているという話は全く聞かない。事態を止めているのが「男系男子」を絶対視する人たちの存在なのだとすれば、愛子さまの切なさを救えるのは国民だけだ。そこを忘れてはいけないと、個人的には思っている。