バンブーズブログ

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[社説]社会保障ゆがめる「年収の壁」助成金


 
 
#社説 #オピニオン
2023/9/29 2:00
 
「年収の壁」対策を説明する岸田首相(25日、首相官邸)=共同
社会保障制度の公平性の観点で問題がある。パート従業員が社会保険料負担を避けるために働く時間を抑える「年収の壁」の対策として、政府の全世代型社会保障構築本部(本部長、岸田文雄首相)が決めた助成金制度のことだ。

少子化が進むなかで増え続ける高齢者の生活をどう支えるのか。この厳しい局面を乗り越えるには能力に応じた負担を国民に広く求め、弱者を支える力を社会全体で高める必要がある。所得を得た人が金額に応じた社会保険料や税を納めることはその基本だ。

ところが現在、《専業主婦ら会社員に扶養される配偶者は「第3号被保険者」》と位置づけられ、働きに出ても収入が一定額以上になるまでは負担を求められない。

《この優遇がそもそもおかしい》のに、今回の助成金制度では、専業主婦らの収入がその一定額を超えても、国が実質的に保険料を肩代わりして手取りが減らないようにするという。これでは優遇に優遇を重ねることになる。

こうした専業主婦らが従業員数100人超の企業で働く場合、週の勤務が20時間以上で月収が8万8000円(年収換算で約106万円)以上になると扶養から外れる。給与から社会保険料の天引きが始まり、年収が125万円以上になるまでは、手取りが適用前の水準を下回ることになる。

今回の対策では、社会保険料の算定対象としない手当を2年間限定でつくる。給与に上乗せして勤め先からこの手当を支給されたパート従業員は、収入が106万円以上になって保険料負担が発生しても、それと同額が手当によって穴埋めされる形になる。

この対策を実施した企業には雇用保険特別会計からパート1人あたり最大50万円を助成する。つまり実質的に国がパートの保険料を肩代わりすることになる。

助成金は人手不足への対策が狙いだという。確かに最低賃金が10月に引き上げられると、106万円の壁を越えないように、働く時間を減らす動きがパートに広がる可能性はある。

しかし、たとえ時限措置であっても、専業主婦らの優遇を広げる手法は負担と給付の公平性を損ない、社会保障制度をゆがめかねない。年収の壁が生まれてしまう根本原因は「負担なき給付」を認めた第3号被保険者制度にある。

《そこにメスを入れる改革こそが、壁をなくすためには必要だ》