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蛇口から水」いつまで 老朽管6割に

蛇口から水」いつまで 老朽管6割に、雨水で自給自足
 
1億人の未来図
#1億人の未来図
2023/11/19 2:00 [有料会員限定]

【この記事のポイント】
・水道管の老朽化などで給水車に頼る地域も
・40年代には水道代を43%値上げする試算
・雨水での自給自足や生活の場の集約も必要に
蛇口をひねれば、いつでも水が出る。そんな日常が続かなくなるかもしれない。今のまま2050年になると、約6割の水道管が法定耐用年数を超す。使えなくなる恐れがある一方、維持管理する職員は減る。人口減と老朽化のはざまで、生活に欠かせないインフラを見つめ直すときが来る。

 
水道管でなく給水車で水を運ぶ(10月20日宮崎市内の集落)
宮崎市の南西部、山あいで自然広がる田野地域の集落。ここに住む長友健治さん(75)夫妻が自宅で日々使う水は、給水車が運んでくる。

2005年の台風14号で集落の水道設備は土砂災害に見舞われた。施設の老朽化や過疎化も踏まえ、市は浄水場と配水池を管路で結ばず、車両による「運搬送水」に切り替えた。水道管や浄水施設の整備であれば億円単位の費用がかかるが、運搬送水では車両費など1500万円程度で済んだという。

最寄りの配水池に週3〜4日、市上下水道局の給水車が合計約25トンの水を運搬。配水池からは管路で水を住宅に送る。長友さんは「野菜を洗ったり、風呂に入ったりするのに市の送水は不可欠。なくなれば転居も考えざるをえない」と話す。

運搬送水による給水人口は10人に満たず、料金収入は限られる。年1000万円近くの人件費など維持管理費は市の一般会計から補っている。同局営業所工務課の日高博之課長補佐は「住民が減っても水は大切なライフラインだが、継続は容易ではない」と話す。

水道事業担う職員、36%減

 
災害など非常時でなくとも、給水車が地域を走る――。こうした光景が今後、広がるかもしれない。

日本水道協会によると、総延長約74万キロメートルに及ぶ全国の水道管のうち、地方公営企業法が定める40年の法定耐用年数を超えた割合は20年度で20.6%。10年前の約2.6倍と急速に老朽化が進む。この間の平均上昇率を基に単純に計算すると、50年度には59%まで高まる。

法定耐用年数は更新時期の目安になる。耐久性は材質や土壌にも左右され、実際に使用できる年数は異なる。それでも期限を超えて老朽化が進めば破損や破裂、漏水を招く可能性は高まる。厚生労働省は今後30年で水道施設の更新に年1.8兆円かかると試算。一方で7月には運搬送水の需要を見据え、水質管理など注意点を示したガイドラインをまとめている。

水道管の維持管理を担う人手も心もとない。水道協会によると、20年度の水道事業の職員数は約4万7300人と、ピークだった1980年度に比べ36%減った。老朽化で管の不具合が増えても、人手不足でカバーしきれず、断水が長期化する場面が生じる可能性がある。

水道代、「43%値上げ」の試算も

 
少子高齢化で給水人口が減ってコストが膨らむ中で、料金の問題ものしかかる。同協会のまとめでは、23年4月時点の家事用20立方メートルの1カ月あたり料金で最も高いのは北海道夕張市で6966円。最も安い兵庫県赤穂市の869円の約8倍の水準となっている。

「2040年代には、全国平均で水道料金を18年度に比べ43%増やす必要がある」。EY新日本監査法人は赤字を回避するために求められる値上げ率をこう試算した。北海道や東北、北陸の3割以上の事業者で50%以上の値上げが必要とみる。格差は40年代には25倍に広がると予測する。

こうした状況にどう向き合うか。「自給自足」を模索する動きがある。

東京大学発のスタートアップ、WOTA(東京・中央)は雨水などを住宅で循環、消毒するなどして再利用し、必要な飲用水や生活用水をほぼ100%賄うシステムを開発した。東京都利島村愛媛県西予市などの民家で実証実験中だ。24年の量産化を目指している。

 
事業を担当する越智浩樹執行役員は「人口密度が低い地方で、水の自給自足のモデルをつくる」と強調する。記者はこのシステムによる水と、都内の水道水を飲み比べてみたが、違いは感じなかった。販売価格は未定だが、水道要らずの家庭が増えるかもしれない。

人が住んでいる限り、その地には水が必要となる。インフラはますます老いる。効率的な維持管理に向け、生活の場や基盤を集約していく議論もさらに必要だろう。

国土交通省の調査では、水道水をそのまま飲める国は日本を含め11カ国にとどまる。「日本人は水と安全はタダと思っている」。約半世紀前、作家イザヤ・ベンダサンが評した姿は過去のものになりつつある。

(高畑公彦、板垣孝幸、グラフィックス 内海悠、映像 碓井寛明)

水道維持、一自治体では困難 松村諭・北海道由仁町
 
家事用20立方メートルあたりの水道料金で、由仁町は6939円。高齢者が多く基本水量を7立方メートルと低く設定し、超過分を高くした事情もあるが全国で3番目に高い。
水道事業は自前で手掛けていたが、水質が悪く量も安定しない課題を抱えていた。このため複数の自治体でつくる「一部事務組合」からの受水に切り替えたものの、工事費が膨らんだ。将来の値上げも避けられない状況にある。
町内の法定耐用年数を超えた水道管の割合は2019年度末に8%だった。それが1年後には20%台と急上昇した。20年後には7割を上回ると試算している。
北海道は人口密度が低いが、水道管を張らねばならない面積は広い。更新では学校や病院などに近い場所を優先するなどの対策が必要になる。
人口減少が進み、一自治体で水道事業を維持するのは難しい。料金収入では黒字を保てず、一般会計から税金を補塡する例も少なくない。市町村から都道府県に運営を移し、職員や財政の基盤を厚くする「1都道府県1事業者」を探る時期が来ている。
今後は人口減を前提に、必要ないインフラを統廃合するなどして賢くダウンサイジングしていく必要がある。人手不足に対処するため、外国人材に力を借りる日が近づいていると感じる。
政治家は任期の先にある未来とも向き合う責任がある。後ろ向きな情報も含めて住民と課題を共有し、対話を始めるべきだろう。