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2023/12/21 2:00
政府は診療報酬本体の増額を決めた(岸田首相、鈴木財務相との協議を終え、首相官邸を出る武見厚労相、15日)
少子高齢化が加速する日本で医療や介護の持続性を保てるのか不安が募る内容だ。岸田文雄政権が決めた診療報酬と介護報酬の2024年度改定のことである。
医療機関が受け取る診療報酬は焦点だった本体部分の改定率を0.88%増とした。薬の公定価格である薬価を実勢取引価格に近づけることで得られる削減効果の大半を回し、報酬全体の引き下げは0.1%程度にとどめた。介護報酬は1.59%の増額とした。
今回の改定は賃上げへの対応が論点となった。産業界では22年ごろから物価上昇を追う形で賃上げが広がったが、公定価格で運営する医療や介護は人件費を価格に転嫁できず取り残されていた。
特に介護は22年に離職者が入職者を上回り、就業者数が減少に転じてしまった。他産業に見劣りしない賃上げの波を介護現場にもたらす必要があった。
ただ医療費や介護費の増加で現役世代の保険料負担は年々重くなっている。仮に改定率が0%でも高齢化で24年度の医療費は8800億円程度増え、保険料負担は4400億円も重くなる。国民負担の抑制と従事者の賃上げを両立できる改定が求められた。
ところが報酬増を求める与党議員の声は強く、最終的に国民負担の抑制は脇に追いやられた。22年度改定の約2倍の伸びにあたる本体部分の引き上げを決め、看護職員や介護職員の賃金を24年度に2.5%、25年度に2.0%底上げする対応を盛った。少子化対策に伴う国民負担増を歳出改革で相殺する政府方針も影を潜めた。
今回追求すべきは報酬の配分にメリハリをつけ、医療や介護の効率を高めることだった。施設の種類や職種別に収支や人材の状況を精査し、最適な形に報酬を再配分する改革こそが必要だった。
財務省の審議会は経営が好調な診療所の報酬単価を5.5%下げるよう求めていたが、今回の政府決定に診療所の報酬に関する改定事項は盛り込まれなかった。
薬価の圧縮分を本体部分を上げるための財源のように扱う近年の構図も踏襲された。後発薬の供給不安や、海外で開発された新薬が日本に入ってこないドラッグロスを解消できるか懸念される。
物価上昇は硬直的な医療や介護の費用構造を変えるチャンスにもできたはずだ。改革意欲の乏しい改定でこの先の少子高齢化を乗り切れるとは思えない。