選択の2024
#社説 #オピニオン
2024/1/8 19:00
運転手の長時間労働の是正が欠かせない(高速道路のパーキングエリアに停車するトラック)
2024年は人手不足が今まで以上に大きな社会課題となる。4月に時間外労働の上限規制が課される運輸・建設業をはじめ、介護など福祉分野も人材難は深刻だ。労働力人口が先細るなかで、問題の先送りは許されない。構造的な人手不足の克服へ官民挙げて聖域なき改革に踏み出すときだ。
「24年問題」を試金石に
道路や住居の補修が滞り、依頼した荷物も届かない――。近い将来、こうしたトラブルが頻発する可能性がある。建設の従事者はピーク時の1997年から3割減った。運輸では何も手を打たなければ2030年には約3割の荷物が運べなくなると推計されている。
労働時間の規制で4月から一定の混乱は生じるかもしれない。しかし、長時間労働に頼ったままでは、持続可能な事業とは言えない。物流と建設の「2024年問題」は将来の危機を乗り越える試金石とすべきだ。
まず多重下請け構造がもたらす弊害を解消する必要がある。週休2日を確保できない建設従事者は多い。トラック運転手は長時間の荷待ちを強いられ、荷役は無料の付帯サービスと見なされてきた。
こうした慣習を抜本的に見直すには発注者や荷主の協力が不可欠だ。下請けとの協議を拒む企業を公正取引委員会が監視するなど、行政の一定の介入も必要だ。
「長時間働いて稼ぐ」という意識を変えるには、歩合給から固定給への転換が重要になる。技能に応じて手当を上乗せするなど、他産業に見劣りしない賃金水準に引き上げる努力が要る。
省人化の徹底は喫緊の課題だ。自動運転をはじめ、ドローンでの測量や配達、ロボットによる施工や積み荷など、官民で普及を加速してほしい。
他社との中継配送など、貴重な労働力を分かち合う発想も必要になる。人材確保を狙ったM&A(合併・買収)も起きている。政府は中小企業の保護よりも業界再編を後押しし、一般ドライバーが乗客を運ぶ「ライドシェア」の解禁など規制改革を推進すべきだ。
人手不足は全産業に共通する課題だ。人口減で外国人は今まで以上に重要な担い手となる。政府は賃金不払いや失踪など問題が多い技能実習制度をようやく廃止し、新制度をつくろうとしている。日本人と同等に労働者としての権利を認め、家族も安心して暮らせる環境を整えなければならない。
にもかかわらず自民党は、就労後2年間は転職できない経過措置を設ける提言を出した。日本で働く魅力は円安で低下している。「選ばれる国」になる条件は何かを政府は真剣に考えてほしい。
人手不足が危機的状況になってようやく対策に動き出す。福祉分野でも構図は同じだ。介護は職員のやる気と使命感に甘え続けてきたが、22年には離職者が入職者を上回り、就業者数が減少した。
原因の一つは低賃金だ。産業界では物価上昇を追う形で賃上げが広がっているが、介護は公定価格である介護報酬による制約を受ける。24年度の改定で賃上げ分を盛り込んだが、他産業に追いつかない懸念が残る。国民の負担をなるべく抑えながら賃金を引き上げるために知恵を絞る必要がある。
求められるのは多角的な取り組みだ。他施設・事業所との協業や大規模化によるコスト削減、保険外サービスとの併用を認める混合介護の拡大などが鍵になる。