バンブーズブログ

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[社説]グローバル企業への日鉄の決断と課題


 
 
#社説 #オピニオン
2023/12/20 2:00
 
日本製鉄は巨額買収を成長につなげられるか
日本製鉄が米鉄鋼大手USスチールの買収に乗り出す。2兆円の巨費には、海外に活路を求める決意がうかがえる。これまで内弁慶体質が指摘されてきた日本の鉄鋼メーカーがグローバル企業への転換をはかる契機としてほしい。

日鉄は過去10年ほど、国内では高炉の休止など縮小路線を採ってきた。巨額買収が実現すれば、成長の軸足をいよいよ海外に移す姿勢が鮮明となる。

日鉄はこれまでインドなどアジアに活路を求めてきたが、巨大市場を抱える米国では後手に回ってきた。米国の鉄鋼業界は保護貿易主義的な傾向が強く、日本も反ダンピング(不当廉売)課税の対象とされた。

米国を代表する伝統企業であるUSスチールを傘下に加えることで本格的に米市場に進出し、グローバル戦略を軌道に乗せてもらいたい。ただ、米国に狙いを定めたのは市場としての魅力だけが理由ではないだろう。

日鉄の橋本英二社長は19日の記者会見で、中国を念頭に「世界の潮流は新しい経済安全保障」と指摘した。「中国を除いた自由競争の中で」どう戦うかが問われるとも言う。米中の対立が深刻化するなかで、同盟国である米国の経済成長を自社の戦略に取り込む思惑がうかがえる。

ただし、待ち受ける課題は多い。まずは株主だけでなく米当局や労働組合の理解を得る必要がある。すでに全米鉄鋼労組(USW)は反対声明を出したが、日鉄には説得力のある施策が待たれる。

長年の保護貿易主義は、米鉄鋼業界の高コスト体質を招いた。老朽化した設備の更新や、2050年のカーボンニュートラル達成に向けた環境投資も必須だ。

これらの課題を解決し、日鉄の力でUSスチールの競争力を高められるか。24年には米大統領選も控える。政争の具になることを避け円滑に買収を完遂するためにも、その青写真を示し実行に移すことが求められる。

日本の産業界では自動車メーカーが早くから海外での成長を実現してきた。機械や部品などの関連産業も続いた。

かつて「鉄は国家」といわれ国策と深く結びついた鉄鋼産業でも、2000年代にミタル・スチール(現アルセロール・ミタル)が相次ぐ買収でグローバル化を果たした前例がある。ようやく動き始めた日鉄の改革に期待したい。