バンブーズブログ

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[社説]文理融合教育をイノベーションの糧に


 
 
#社説 #オピニオン
2024/3/10 2:00
 
東京大学は文理融合の5年制新課程を創設する(本郷キャンパス安田講堂
東京大学がユニークな教育課程を2027年秋から始める。学部(4年)と大学院修士課程(1年)にまたがる5年制で、文系・理系の枠にとらわれず学べる。気候変動や生物多様性など地球規模での課題解決に活躍するイノベーション人材を育成するという。

近年、日本の大学において「文理融合」「文理横断」型の教育・研究体制の整備が進んでいる。東大の新課程によりこうした動きが加速するだろう。次代を担う高度人材の新たな育成の場として期待したい。

東大の新課程は1学年約100人で、半数は海外からの留学生を想定する。講義はすべて英語で実施し、学内の教授陣に加え、国内外から教員や企業人を招き指導にあたる。学問の殻を破って多様な見方や疑う力、考える力を身につけるのは有意義である。

温暖化やデジタル化、先進医療の進化といった現代社会が直面する課題は、テクノロジーの進展が新たなリスクを生み、複雑になっている。解決策を探りだし、イノベーションに結びつけるには、物理や化学、生物など自然科学系の知見だけでは不十分だ。

ここで注目されるのが経済学、社会学といった新たな価値を創出する人文・社会科学系の知見だ。扱い方を誤ると人類や文明を脅かす存在となる人工知能(AI)やゲノム編集などのテクノロジーと上手に付き合うには、倫理学や哲学からの視点も求められる。

学問は発展とともに細分化する傾向がある。学部や大学院の教育をこれに合わせてしまうと、専門分野に特化した視野の狭い「たこつぼ」型の人材育成に陥る。日本の産業界が博士学生の採用を敬遠する要因だった。

イノベーションとは技術やアイデアによって社会に新たな価値をもたらすことだ。将来、自然科学系の博士を目指すにしても、その前段階で文理の枠を超え、幅広い学問を学ぶに越したことはない。

日本の科学技術政策は数年前からイノベーションに軸足を移し、自然科学だけでなく人文・社会科学の振興に乗り出した。昨年、独創的な科学研究に対する大型助成金の対象に東大の経済学者のチームが選ばれた。今後、こうした事例を増やすべきだ。

主要国に比べ、人文・社会科学系の博士号取得者は極端に少ない。文系の博士を拡充し、日本の総合知を磨く必要もある。