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世界の安定へ重責増す日米同盟

[社説]世界の安定へ重責増す日米同盟
 
 
#社説 #オピニオン
2024/4/11 19:00
 
日米首脳会談では、安保に加え経済や科学技術を含めた重層的な協力の強化に合意した =ロイター
ウクライナ戦争や中東危機できしむ国際秩序をどう立て直していくのか。岸田文雄首相が10日、ワシントンでバイデン米大統領と会談し、日米同盟をあらゆる面で深め、世界の安定に貢献していく方針を打ち出した。

日本周辺の安全保障環境は厳しさを増しており、日米同盟の強化は不可欠だ。一方で日本はかつてない重責を負うことになる。米国への協力内容は曖昧な面もあり、首相はこれを明確にして国民の理解を得るべきである。

指揮統制に実効性を

共同記者会見で、首相は「力や威圧による一方的な現状変更の試みは、世界のいかなる場所であれ断じて許容できない。同盟国、同志国と連携し、毅然として対処していく」と強調。バイデン氏は「同盟発足以来、最も重要な刷新だ」と語った。

混迷を深める世界に米国だけでは対処できない。安定した世界秩序に向け、同盟国との連携強化は重要だ。ただそれに実質が伴うよう、どう具体化するかはこれからだ。中核になるのが、自衛隊在日米軍の連携強化に向けた指揮統制のあり方の見直しである。

自衛隊は陸海空やサイバー、宇宙といった多様な部隊を一元的に指揮する「統合作戦司令部」を今年度中に立ち上げる。米軍側のカウンターパートは、沖縄の海兵隊や横須賀の第7艦隊などへの指揮権を持ち、ハワイに本拠を置くインド太平洋軍となる。

日本とハワイは時差や距離があり、有事の際に緊密に協力できるか不安がある。このため在日米軍の司令部機能を強化するといった改善案が検討に挙がっている。

米軍が偵察、監視能力を用いて敵国のミサイルを探知し、自衛隊がその情報を受けて迎撃ミサイルで撃ち落とす。こうした協力を可能にするには双方による指揮統制の緊密な連携が不可欠だ。

ただ、自衛隊が米軍の指揮下に入ると、他国の武力行使との一体化は認めないという憲法上の問題が生じかねない。米軍が主導する紛争に自衛隊がいつのまにか組み込まれるといった不安も残る。

日本政府は「自衛隊が米軍の指揮下に入ることはない」などと説明しているが、具体的な姿はまだみえない。実効性のある改善策をすみやかに示してほしい。

中国の急速な軍拡を受け、日米同盟だけではインド太平洋の安定はおぼつかなくなってきた。米国は同盟国、同志国とともに抑止力を高める「統合抑止」を掲げ、多国間の重層的な協力を進める。米国と英国、オーストラリアによる安保枠組み「AUKUS(オーカス)」に日本が技術協力すると決めたのはその一環だ。

日米がフィリピンと初めて3カ国による首脳会談を開く意義も大きい。フィリピンは南シナ海で中国から威圧され、小競り合いが続く。日米がフィリピンを支える構図は、力による一方的な現状変更は許さないとの中国への強いメッセージになる。海洋安保を中心に幅広い協力を期待したい。

もっとも、抑止力の向上だけでは地域の安定は望めない。日米同盟の強化に中国はさっそく反発した。両首脳が中国との対話の継続を確認したのは当然だ。意思疎通のパイプを太くし、誤解や意図せざる衝突を防ぐ危機管理がこれまでにも増して重要になる。

この点で、米中間では閣僚の往来など一定の対話が機能しているのに対し、日中間は対話のチャンネルが乏しいのが気がかりだ。

深まる経済・科学協力

日米は経済や科学技術の分野の協力も重層的にする。グリーントランスフォーメーション(GX)分野では、両国の政策の相乗効果や影響を最大化するための対話枠組みを創設する。脱炭素関連産業の競争力強化に生かしたい。

半導体などのサプライチェーン(供給網)強化に向け、両国の経済、技術戦略を整合させることもうたった。ただ、その一環となる日本製鉄によるUSスチールの買収を、首相が後押しする姿勢が見えなかったのは残念だ。

先端技術は経済安保で重要性が増している。核融合発電や次世代半導体、生成AI(人工知能)、月面探査などで協力を深め、中国を念頭に技術流出を防ぐとともに競争優位に立つ狙いがある。

その半面、中国やロシアの反発を招き、国際協力を前提としていた科学技術分野でも分断を促す懸念もある。この点にも留意して協力を深めてほしい。

11月の米大統領選の行方は見通せない。今回の首脳会談が、選挙結果に左右されない強固な同盟につながるよう期待する。