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2023/6/29 2:00
習近平政権は「スパイ摘発」を強化する=ロイター
これでは安心して中国に行けない。中国は7月にスパイ行為の摘発を強化する改正「反スパイ法」を施行する。日本人を含む外国人の拘束が増えるのではないか。そんな不安が高まっている。
アステラス製薬の中国法人に勤める日本人の男性が、スパイ行為の疑いで中国当局に拘束されて3カ月がたつ。日本政府はすぐに解放するよう求めてきたが、解決への道筋はみえていない。
中国側は「関係部署が確たる証拠を得ている」と繰り返すばかりだ。男性がどんなスパイ行為をしたのかを明らかにせずに拘束を続けるのは、納得できない。
一部の日本企業は社員の安全を保てないとして、中国出張を制限している。中国にかかわる研究者の多くも訪中を見合わせる。さまざまな分野で日中間の往来に影響が出ている事態を、習近平政権は深刻に受け止めるべきだ。
反スパイ法が施行された2014年以降、中国でスパイの疑いで拘束された日本人は少なくとも17人にのぼる。米国人などに比べ、日本人の拘束は格段に多いとの指摘もある。
今回の改正で、知らぬ間にスパイの疑いをかけられるリスクはいっそう高まると言わざるを得ない。「スパイ行為」の定義が広がり「国家の安全と利益」にかかわる情報のやり取りがすべて摘発の対象になるからだ。
何が「国家の安全と利益」にあたるかは明示していない。「その他のスパイ活動」という曖昧な規定も残る。当局の恣意的な判断でスパイに仕立て上げられるおそれが強まり、中国で仕事をする日本人は緊張を強いられている。
岸田文雄首相は最近の講演で「訪中についても考えていく」と表明した。実現すれば習近平国家主席に直接、アステラスの社員ら拘束されている日本人の解放を求める機会になる。自国民の安全にかかわる問題だ。首相のリーダーシップに期待したい。
中国は新型コロナウイルスが収束したあとも、経済が振るわない。景気てこ入れのために、外資の力は必要なはずだ。中国の李強首相は世界経済フォーラムが主催する会議で「高水準の対外開放を推進する」と約束した。
不透明な反スパイ法の手続きはそれに反する。日本政府と経済界は毅然とふるまい、中国に日本人の安全を守るよう圧力をかけ続けるべきだ。