バンブーズブログ

社会の大きな流れは新聞のトップニュースに掲載されます。 その情報を読み続けていくと数年先が見えてきます。それは怖いものなしです。

[社説]地域の「足」確保へライドシェアの活用を


 
 
#社説 #オピニオン
2023/10/28 2:00
 
インバウンド解禁もタクシー不足の一因(神奈川県鎌倉市小町通り、今年7月)
岸田文雄首相が所信表明演説で一般の運転手が自家用車で乗客を運び、報酬を得るライドシェアに取り組むと表明した。日本ではタクシー業界の強硬な反対でライドシェアをタブー視する空気もあったが、米国はじめ世界各地で手軽な市民の足として定着している。

運転手不足が深刻化するなかで、政府が遅ればせながらライドシェア解禁に取り組むのは評価できる。迅速な実現を望みたい。

待望論の背景には全国的なタクシー不足がある。日本のタクシー運転手は高齢化や新型コロナウイルス禍で過去15年で4割減ったが、インバウンド解禁などもあって足元の需要は旺盛だ。

その結果、東京の都心でも時間帯によってタクシーが足りず、観光地ではタクシー待ちの長蛇の列も珍しくない。高齢者が多く、公共交通の貧弱な地方部ではもともと「移動難民」が多数いる。

タクシー業界は運転手の確保策として、2種免許の取得要件の緩和などを求めている。これはこれで進めればいいが、それだけで供給不足を解消できるのか。

国土交通省は過疎地限定で従来75歳未満だった個人タクシーの上限年齢を80歳未満に引き上げる方針だが、これも理解に苦しむ。高齢運転手に重大事故が多いのは統計的事実であり、同省が強調してきた安全重視の方針と食い違う。

こうした事態を打開するカギがライドシェアだ。スマホのアプリでクルマを呼べば、近所の若者や主婦がマイカーで例えば病院まで送迎してくれる。住民や観光客にとっては頼りになる足であり、ドライバーにとっては暇な時間を生かして副収入を手にできる。

課題の一つは安全性の確保だ。運転手と客をマッチングする会社に、運転手の健康管理や事故の際の補償責任の一部を担わせるのも一案だろう。他方でライドシェアは運転手と客が互いに評価しあうので、危険運転やカスタマーハラスメント的な行為が自然に淘汰される効果も期待できる。

運転手の長時間労働を懸念する声もあるが、「流し」営業の成立しない非大都市圏から段階的に解禁することで、対処できるのではないか。運転に限らずフリーランスの働き手をどう保護するかは、引き続き重要なテーマである。

ライドシェア反対の旗を振ってきたタクシー業界も、「移動難民」を減らすために何をすべきか、大局的な視点で考えてほしい。