バンブーズブログ

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[社説]医薬品不足の解消へ構造改革を急げ


 
 
#社説 #オピニオン
2023/11/14 2:00
 
沢井製薬の検査不正で医薬品供給への影響が懸念される(記者会見で頭を下げる沢井製薬木村元彦社長=写真左=と沢井光郎会長。10月23日、大阪市
使い慣れた薬が医療現場に安定的に供給されることは、わが国では当然のことと考えられてきた。だが近年、国民の健康と生命を守る薬が患者に届かないという重大な問題が起きている。

きっかけは、後発医薬品メーカーの小林化工が起こした製造不正だ。2021年に業務停止命令を受けると、他の後発薬メーカーでも工程に問題がみつかり、薬の出荷停止が広がった。その結果、違反がないメーカーへの発注が急増し、玉突き的に多くの薬で出荷が制限されるようになった。

供給不足は2年以上たっても解消せず、23年9月の日本製薬団体連合会の調査によると、後発薬全品目のうち19%で出荷が制限され13%で出荷停止となっている。10月には業界大手の沢井製薬でも品質試験に関する不正が発覚し、さらなる影響が懸念されている。

問題の直接の原因は後発薬メーカーの経営体質にある。ただし、背景には製薬産業の構造的な課題と、経営に大きな影響を及ぼす薬事行政の不備がある。こうしたところに切り込んだ対策を打たないと病巣は消えないだろう。

最大の問題は小規模なのに多品目を生産する企業構造だ。後発薬を供給する約190社の67%は売り上げが年10億円に満たない。小規模林立のメーカーが約1万1千品目もの薬を作っている。

多品目の生産は製造工程が複雑で非効率になりがちだ。生産能力や人的資源が限られる小さな企業では、その管理が行き届かずに品質不良のリスクが増大する。常に限界に近い稼働になるので緊急増産などの対応も難しい。

こんな構造になった大きな要因は薬の公定価格である薬価の仕組みにある。後発薬の薬価は投入直後は比較的高いが、数年後には大きく下がる。これだとメーカーは新たな後発薬を次々と投入しないと収益を維持しにくい。今では同じ成分で同じ規格の薬を多数の企業が作っている状態だ。

割安な後発薬の浸透は医療費の増大を抑えるために今後も重要な施策だ。だが薬が供給されなければそれも行き詰まりかねない。

供給不安を解消するには、再編によって後発薬各社の経営規模を拡大するなど、産業構造の改革が必要だ。薬価の過度な引き下げを防ぐ一方、より実効性がある形で薬の供給義務をメーカーに課すことも課題になる。政府と業界が連携して是正を急ぐべきだ。