バンブーズブログ

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[社説]技能実習の弊害を引きずる改革にするな


 
 
#社説 #オピニオン
2023/11/28 19:05
 
政府の有識者会議の最終報告は外国人の転職を制限する余地を残した(24日、東京都千代田区
これで外国人が日本で安心して働ける土台ができると言えるだろうか。技能実習制度を廃止し、新たにつくる制度のことだ。

政府の有識者会議が24日、新制度に関する最終報告書をまとめた。3年の就労を基本に、育成後は別の在留資格である「特定技能」への移行を目指す。1年超の就労などを条件に転職を認めるが、業種別に当分の間、転職できない期間を延ばせる余地を残した。

経過措置を設けるきっかけになったのは、有識者会議の事務局が今月中旬に突然提示した修正案だ。自民党内で地方から大都市への人材流出を懸念する声が多く挙がったことに配慮したのだろうが、理解しがたい。例えばある業種では2年間転職ができなくなるなど、今後の制度設計によって内容が骨抜きとなる懸念がある。

転職先は同じ業種内に限り、技能や日本語の試験の合格を条件としている。育成にかかった費用を転職先の企業が一部負担することも求めた。雇用する側の事情ばかりを尊重して、転職の道をさらに狭めることは看過できない。

技能実習は賃金不払いなどのトラブルが絶えず、転職が原則できないため多くの失踪者を生んできた。海外からも人権侵害にあたると批判されている。転職制限の緩和は新制度の根幹だったはずだ。人権保護の理念が後退したと言わざるを得ない。

長く働いてもらえるよう教育・研修の機会を十分に提供し、他社に見劣りしない処遇改善に努めるのが筋ではないか。人材流出の懸念は日本人でも同じはずだ。

政府は最終報告に基づき、来年の通常国会に関連法案の提出を目指している。転職のハードルを上げれば、技能実習制度の看板の掛け替えだと海外から見なされる。そのリスクを直視すべきだ。

人権保護では外国人の受け入れ窓口となる監理団体が企業と癒着しないよう、厳格な審査基準を詰めることも重要になる。来日時に高額な手数料を求めるブローカーの排除も急務だ。日本語教室の拡充、仕事と生活の相談窓口の整備など政府が先頭に立って解決すべき課題は山積している。

人口減で人手不足はますます深刻になり、各国との人材獲得競争は激しさを増す。

《日本が変わったという姿勢》を明確に示さなければ、外国人にそっぽを向かれることになりかねない。政府は正念場であることを肝に銘ずるべきだ。