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2023/12/18 19:00
保険適用されるアルツハイマー病の治療薬「レカネマブ(商品名レケンビ」(エーザイ提供)。投与できる患者数はまだ一部にとどまる =共同
アルツハイマー病の進行を緩やかにする治療薬「レカネマブ(製品名レケンビ)」が20日から保険適用される。認知症治療の新たな一歩となるが、投与できる患者数は一部にとどまる。普及には解決すべき多くの課題がある。
レカネマブはエーザイが米バイオジェンと共同開発した。アルツハイマー病の原因物質の一つとされるたんぱく質を患者の脳内から取り除く。臨床試験(治験)では病気の進行スピードを27%緩やかにする効果が確認された。
厚生労働省は薬の公定価格である薬価を定め、体重50キログラムの人のケースで年間約298万円となった。ただ高額医療費の負担に上限を定める制度があるため、患者の負担は70歳以上の一般所得者で年14万4000円で済む。
画期的だが高額な薬の薬価設定は、まだ手探りの段階だ。医療保険財政への影響を懸念する声がある一方、イノベーションをきちんと評価する必要性を指摘する意見もある。
レカネマブは高額の薬価としつつ、副作用に適切に対応するため、投与可能な医療機関が限定された。このため投与患者の見込みは2031年に3万2000人と、エーザイが推計する対象患者数120万人を大きく下回る。
薬剤費の総額は31年時点で986億円にとどまり、保険財政への影響も現時点では限定的だ。
今後はより多くの患者に薬を届けられるよう、医療体制を拡充する必要がある。認知症診療に対応できる専門医や、原因物質の蓄積状況を検査できる施設を増やすことなどが課題になる。
同時に、投与患者が増えた場合に巨額の費用を医療保険でどう受け止めるのか、今から対策を練る必要もある。全処方薬の費用対効果を検証し、効果が小さい薬を保険適用から外すなどといった議論を深めていくべきだ。