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2024/2/12 2:00
政府税制調査会の翁会長(左)に諮問文を手渡す岸田首相(1月25日、首相官邸)
首相の諮問機関である政府税制調査会が日本総合研究所理事長の翁百合氏を会長に互選した。11年務めた中里実東大名誉教授の後を継ぎ、女性で初の会長となる。社会保障や金融の知見が深い翁氏のもとで本質的な税制の議論を深め、積極的に発信してほしい。
岸田文雄首相は新体制に対し、経済成長と財政健全化の両立とともに、少子高齢化、グローバル化、デジタル化などの構造変化に対応した税制の審議を諮問した。
翁氏は日本銀行から日本総研に転じたエコノミストで、医療・介護の規制改革、社会保障の負担や給付の改革論議に関わった。会長代理の清家篤氏も全世代型社会保障構築会議の座長を務める。
税制と社会保障の一体改革が不可欠ないま、双方についての専門知識と発言力を持つ人物が議論を率いるのは望ましいことだ。
翁会長の税調に何より求めたいのは「負担論」を正面から論じ、世論に訴えかけることである。
実際の税制改正の内容は与党の税制調査会が決める。政府税調はその理論的な裏付けや税のあるべき姿を提示する役割を担う。しかし、最近は負担増に逃げ腰な政権に配慮した姿勢が目立つ。
政府税調が2023年6月にまとめた中期答申は所得、消費、法人税をはじめ各税目の増減税などの具体的な方向性を示さなかった。踏み込み不足は明らかだ。
それでも会社員向けの給与所得控除の見直しに関する記述が「サラリーマン増税」を意図しているとの解釈がネット上などで広がった。増税のイメージを持たれるのを嫌う岸田首相が火消しの発言をする異例の経過をたどった。
人口減少下での社会保障の持続性確保が課題となるなか、負担の議論を避け続けるのは将来世代にとって無責任にほかならない。
加藤寛、石弘光両氏のような歴代の会長には、税制を巡り国民の論議を喚起する発信がみられた。翁会長が率いる政府税調も、税制のあるべき将来像を誠意を込めて国民に問い続けてほしい。