[社説]財政目標の着実な達成へ成長と規律を
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2024/1/23 2:00
内閣府が25年度も基礎的財政収支の赤字が続くとする試算を示した経済財政諮問会議(22日、首相官邸)
デフレからインフレへ日本経済の環境は変わりつつある。一方で少子高齢化の進行や金利上昇といった逆風も吹く。財政の持続可能性を高め、将来世代の不安を軽減する努力を尽くすべきだ。
内閣府は2024年度予算案を反映した中長期の経済財政試算を経済財政諮問会議に示した。25年度の国・地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス、PB)は1.1兆〜2.6兆円の赤字と、同年度の黒字化を掲げた政府の財政健全化目標に一歩及ばない。
PBは政策に使う経費を税収などで賄えるか否かを示す。収支の黒字化は債務の膨張を止め、財政の安定を保つための第一歩だ。岸田文雄首相は「財政健全化を着実に進める」と述べたが、そのためには経済成長の底上げと財政規律の回復が必要だ。
試算に差があるのは経済成長の違いによる。国内総生産(GDP)が20年代後半に名目3%程度の成長をする想定で赤字は1.1兆円だが、足元の0%台半ばの低成長が続く想定の「ベースライン」では2.6兆円に膨らむ。
賃上げの定着や人材投資、デジタル化の促進などで生産性を高め成長を加速させることが極めて重要になる。一方で過度の楽観も禁物だ。厳しめのシナリオをにらみ健全化に取り組む必要がある。
最近の物価や賃金の上昇で歳入が増えたが、23年秋の経済対策に伴う追加歳出の影響などで収支の改善は小幅にとどまった。政府は近年並みの歳出効率化を続ければPB黒字化の目標達成が視野に入るというが、大型の補正予算や所得税の定額減税の延長があれば、道筋は極めて厳しくなる。
能登半島地震の被災地支援や復興に万全を期すのは当然だが、新型コロナウイルス禍の時期から恒例となった大型の経済下支え策とは一線を画し、民間主導の成長に軸足を移してほしい。歳出が成長や生活の安定に結びついているかどうか、データに基づく検証で歳出を効率化することも大切だ。
今後は金利の上昇も見込まれる。GDPの2倍以上の債務を抱える日本にとって、内外の金融市場からの信認の確保は極めて重要になる。中長期での社会保障制度の改革や、安定財源の確保についても議論を深めるべきだ。
経済危機や自然災害など不測の事態での財政の役割は大きい。「平時」に規律を確保し、機動的に動ける余地を残す必要がある。